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Møv og Funder モヴとフンダー

デンマーク映画 (1991)

12歳のモヴと、22歳のフンダー。繊細で正直で真面目で心優しい少年と、犯罪歴があり暴力的で深手を負った青年。この2人が、偶然に出会い、モヴが何とかフンダーを助けようと頑張ろうとする内容の映画。上映時間70分と、映画としては非常に短いのだが、そのため、余分な場面は一切排除した濃厚でストレートな構成で、サスペンスフルな心温まるストーリーの進行を楽しむことができる。1991年と、それほど古い映画ではないが、デンマーク製のDVDは、全画面の8割の大きさの映像しか入っていないタイプで、細かなところがボケでしまう。そこで、Adobe BridgeのCamera Rawに最近追加された「強化」機能を使って4倍の大きさで精細度の変わらない映像を作成し、その拡大画像をPhotoshopで加工するという手法を試みた。翻訳に当たっては、流布している英語字幕と、DVDのデンマーク語字幕とを併用した〔英語字幕の信頼度は80%〕

モヴはシングルマザーの母と2人で、コペンハーゲンの都心から外れた商店街にあるアパートの3階に細々と住んでいる。モヴが父と週末を過ごせることを楽しみに通りに出ても、一向に父は現れない。しびれを切らしたモヴが父に電話すると、急に愛人のいるストックホルムに行くことになったと言われる。モヴが電話ボックスの中でがっかりしていると、ドスンと音がして青年が中年男に暴力を受けていた。慌てて逃げ出したモヴに、中年男は何も見なかったことにしろと迫るが、青年は、ビール瓶で中年男の頭を殴る。モヴはそのままアパートに逃げるが、このケンカの結果、中年男は救急車で運ばれ、青年(フンダー)が加害者として手配される。しかし、実際は、フンダーも中年男にひどい傷を負わされていて〔こちらの方が重傷〕、逃げ込んだ先は、モヴのアパートの半地下にあるゴミ置き場だった。母に言われてゴミを捨てに行ったモヴは、そこでフンダーと遭遇する。最初は逃げたモヴだったが、心根の優しい少年なので、フンダーを地下室の奥にある自らの隠れ家に連れて行き、飲み物や食料を持って行き、ナイフで切られた深い傷の手当も手伝う。しかし、地下室の中は寒く、傷も化膿し始めたことから、フンダーは、知り合いの医者に連れていくよう頼む。モヴが自転車に臨時の箱車を付け、そこにフンダーを押し込んでいざ出発しようとした時、アパートの2階に住むリッケという “お高く止まってはいるが、実はモヴが好きな女の子” が、5分でいいから地下室に行こうと誘う。5分だと思って一緒に行ったモヴに、リッケはキスし、5分が数時間になり、外は雷雨。しかも夜になる。お陰で、モヴが戻って来た時には、戸外に放置されたフンダーはずぶ濡れ。おまけに、連れていった医者は、時間外で帰宅してしまっていた。責任を感じたモヴは、フンダーのアパートに運んで行くが、そこはフンダーのものではなく、タダで10ヶ月一緒に住まわせてもらっていただけの部屋だった。そして、一銭もお金を払っていなかったフンダーは、部屋の持ち主に追い払われる。モヴは、行き場を失ったフンダーを、自分の部屋に連れて行き、母には、何とか言い繕う。母はそれ以上追及しなかったが、モヴに会いに来て、チラとフンダーを見たリッケは、直ちに警察に通報する。モヴは、アパートの屋上にフンダーと一緒に逃げるのだが…

カスパー・アンデルセン(Kasper Andersen)は、1977年4月23日生まれ。現在は、撮影監督のカスパー・トゥクセン(Kasper Tuxen)として知られている。彼の後年のインタビューによれば、13歳の時に初めて映画〔この作品〕に出演した時から、撮影に興味を持ったそうで、コペンハーゲンのデンマーク映画学校に4年間通い、みっちり撮影について学んだとか。今はニューヨークに拠点を置き、最近の日本公開作では、青木ヶ原樹海を舞台にマシュー・マコノヒーと渡辺謙が共演した『追憶の森』(2015)や、メル・ギブソンとショーン・ペンが初共演した『博士と狂人』(2019)でも撮影を担当している。以前、このサイトで紹介したデンマーク映画『Ekko(エコー/記憶の谺(こだま))』(2007)も、彼の撮影。子役としての活躍はこの映画だけしかないが、生真面で心優しい少年を、きわめて見事に演じている。

あらすじ

映画の冒頭、モヴが “お泊まり” 用の荷物をバッグに詰めている。その時、モヴの部屋が映るが、一番に表示されたのは『コマンドー』の勇ましいシュワルツェネッガーのポスター。次に、インディアンの白黒写真の前で、セーターの上腕部に丸めた布を入れて筋肉隆々のポーズをしてみせる。最後にバッグに入れたのはEDDERKOPPEN〔スパイダーマン〕のコミック。モヴの好みがよく分かる。モヴが最後にしたことは、インディアンのポスターを剥がして筒状に丸めたこと。モヴが、バッグと筒状のポスターを持ってアパートから出ると、父の車を探す。近所の子が、サッカー・ボールを頭にぶつけて 「一緒に遊びに行かないか?」と誘うが、「できない。パパを待ってる」と断る。父の車がなかなか現れないので、筒状のポスターを望遠鏡のように覗いでみる(1枚目の写真)。待ちくたびれたモヴは公衆電話ボックスに入り、父に電話し、公衆電話の番号を言って掛け直してもらう。待っている間、モヴはガラスの落書きを削り取ろうと忙しく、向かいのABENという店から出てきた2人の男が喧嘩を始めたのには気付かない(2枚目の写真、矢印)。父から電話が掛かってくると、「いったい いつ来るの?」と尋ねる。すると、「伝言 届かなったか?」という返事。「ううん」。「行けなくなった。ビルギッタが航空券を送ってくれたから、週末は彼女とストックホルムで過ごす。何度も電話したんだぞ。飛行機が出るまで、あと1時間半しかない。リコリス〔北欧で定番のお菓子〕を買ってやる。もう行かないと。じゃあな」。モヴは、失望・落胆して父の弁解を聞いている(3枚目の写真)。モヴの両親は別居もしくは離婚していて、父はビルギッタ、母はマークと付き合っていて、モヴは 2人にとって常に後回しの存在。モヴが受話器を置き、がっかりして両手で顔を押さえていると…
  
  
  

すぐ横のガラスに、一人の青年が 中年男に顔が歪むほど叩き付けられる(1枚目の写真)。青年は何度も腹を殴られ、道路に倒れる。怖くなったモヴが電話ボックスから逃げ出すと、中年男に捕まり、「お前は何も見なかった。いいな? でないと命はないぞ」と脅される(2枚目の写真)。道路に倒れていた青年は、近くに落ちていた空のビール瓶を拾うと、後ろから中年男の頭を思い切り殴り(3枚目の写真)、男は頭を押さえて道路に倒れ込む。モヴは、電話ボックスのすぐ横にある自分のアパートに逃げ込む〔どう見ても、中年男の方が悪い〕
  
  
  

母は、モヴを見て、「ペル〔父の名〕のところに泊まりに行ったんじゃなかったの?」と訊く(1枚目の写真)。「ううん。来週に延ばしたんだ」(2枚目の写真)。「じゃあ、1人でここにいることになるわよ。マークがあと10分で来るから」。「いいよ」。「代理店から電話があったら、図面はタクシーで送ったと言っといて。病院から電話があったら、お祖母ちゃんの請求書はすぐに払うと言っといて」。最後に、ゴミの入った袋を渡され、「下のゴミ箱に捨ててきて」。さらに、「サンドイッチは自分で作って。冷蔵庫にチーズが入ってる」。モヴ:「僕がチーズ嫌いなの、知ってるでしょ?」。母:「家にいるなんて知らなかったから」。「じゃあ、食べない」(3枚目の写真)。
  
  
  

モヴが、ゴミ袋を サンドバッグのように叩きながら階段を下りてくると、内心好きな女の子リッケがドアの所にいたので、頭と腕を壁に付けて恥ずかしそうに微笑む(1枚目の写真)。「あら、モヴ」。「やあ、リッケ」。「ゴミ部屋に行くの?」(2枚目の写真)。「うん」。モヴはカッコ良く見せようとして階段の手すりに乗って滑り降り、見事に落ちてゴミが散乱する。リッケは、「なぜそう、子供っぽいの?」と冷たく言い、モヴの手のひらにゴミのかけらが刺さったのを見ても同情の言葉もかけない。バタンとドアが閉まったのを聞き、モヴは、ゴミを袋に戻すのに集中する(3枚目の写真)。
  
  
  

モヴが半地下にあるゴミ部屋に行き、並んでいるゴミを入れる箱の蓋を1つ開くと、箱の影に誰かいるのに気付く(1枚目の写真)。それは、先ほどケンカをしていた青年だった(2枚目の写真)。外では救急車のサイレンの音がするので、この人 何をしたんだろうと怖くなったモヴは、ゴミ袋を持ったままゴミ部屋から逃げ出す。部屋に戻る階段の窓からは、ストレッチャーに乗せられた中年男がABENという店から搬出されるのが見える(3枚目の写真)。パトカーも到着する。
  
  
  

さっき青年に助けられたことを思い出したモヴは、もう一度ゴミ部屋に戻る。そして、隠れているのをやめた青年から、「ここで何してる?」と鋭く訊かれる。モヴは、ゴミ袋を持ち上げて見せる(1枚目の写真)。青年は、「ここに、蛇口はないのか?」と訊く。モヴは、蛇口まで案内するが、捻っても出てこない。「部屋に行けばあるよ。持ってこようか?」(2枚目の写真)。「今はいい」。そう言った後で、青年は状況を説明する。「俺、ABENで争っちまった。だから、ここに逃げ込んだ。どこか、隠れてる場所ないか?」。モヴは、ゴミ部屋の奥にある物干し場の一角を仕切って作った “モヴの隠れ家” に案内する。「1時間、いさせてくれ」。そう言うと、青年は床に座り込む(3枚目の写真)。積んであった雑誌の一番上のものをどけると、2冊目は大人用のヌード雑誌。「こんなの見るんか?」。「最初から ここにあったんだ」。そんな言葉など信用しない青年は、「お前の彼女に拒まれたらどうやるか知ってるか?」と言うと、マッチを口で折って “⊓” の字形にすると、「股の間を濡れさせるんだ」。
  
  
  

そのあと、青年は真面目な顔に戻り、「ここにはホントに水がないのか?」と訊く。モヴは頷く(1枚目の写真)。「お前を、信じていいか?」。「いいよ」。「じゃあ、飲み物と食べ物を持って来てくれ。誰かに訊かれたら、俺なんか知らないと言え。いいな?」。モヴは了解して部屋に行く。母は、マークと一緒にデートなので、探すのは簡単だがストックがほとんどない。モヴは、透明な酒が半分ほど入ったボトル1本と、オレンジジュースの紙パック、コーラ1本、それに、モヴが嫌いで食べなかったチーズ・サンドを持って隠れ家に戻る。青年は紙パックをナイフで切ると、一気に飲み干す(2枚目の写真)。そして、モヴが 「これしか残ってなかったんだ」と言って、申し訳なさそうにチーズ・サンドを示すと、「チーズは最高だ」と言ってかぶりつく。それが済むと、コーラの瓶をもらい、服をまくり上げ、ナイフで切り裂かれた長さ10センチほどの腹部の傷を露出させる。それを見たモヴは、「病院に行かないと」と言うが、「平気だ。限界までガマンする〔Man skal skide til kanten/この表現は、映画の中で4回出てくる〕」と言い、「コークはアメリカ製だ。傷に効くかも」と言って、傷口に注ぐ(3枚目の写真、矢印)〔コーラに消毒効果はない。洗浄するだけなら、無菌状態の液体なので意味はあるのかも〕
  
  
  

その時、物干し場の方で、ガタンと大きな音がする。モヴが様子を見に行くと、そこにいたのはリッケ。この “本質的に自己本位で口の悪い” な少女は、「何よ、このアホンダラ。あたしを、死ぬほど怖がらせるのが趣味なワケ?」と意地悪な口をきく(1枚目の写真)。「ううん、手伝おうと思っただけ」。「床に落とすのが関の山でしょ」。「そんなことないよ」。「こんなトコで何してたの?」。「何も〔Ikke noget/モヴの口癖〕」。「何かしてたんでしょ?」。「うん、だけど秘密」。そう言いながら、干してあった洗濯物をリッケと一緒に集める。リッケ:「最初、ナイフで刺した奴かと思ったのよ」。「それ何?」。「警察が捜してる。ABENで男を刺したの」 。「死んだの?」。「ううん、でも 病院に運ばれてった」。「もう、遠くに逃げたんじゃないかな」(2枚目の写真)。「ううん、ケガしてるって」。隠れ家に戻ると、青年から、「今まで何してた?」と訊かれる。「何も」。「『何も』って、どいいう意味だ?」。「何も」(3枚目の写真)。そして、「誰かを刺したの?」と訊く。「どこで聞いた?」。「女の子。でも、僕 何も言わなかった。ホントに刺したの?」。「奴が先にナイフを出した。正当防衛だ」。「なら、なぜ警察にそう言わないの?」。「信じてくれない。だから、限界までガマンだ」。
  
  
  

「ナイフ、見ていい?」。それに対し、青年は、変わった “賭け” を提案する。マッチ箱から “V” 字型に張り出した2本のマッチ棒の2個の頭薬に、反対側からもう1本のマッチ棒の頭薬をぶつけ、3個の頭薬に同時に火を点ける。マッチ棒が黒く燃えて、反対側の1本〔“Y” 字型の縦棒に該当〕のマッチ棒の先端〔次の写真の矢印〕が上に向けばOK、下を向いたままならNOというもの(1枚目の写真)。結果は、上に曲がり、モヴはナイフを渡してもらえる。それは、飛び出しナイフだったので、モヴはどうしていいか分からない。「ボタンを押せ」。瞬時にナイフが出て来てモヴはびっくりする(2枚目の写真)。モヴは、嬉しくなって、「ここに いたい?」と訊く。「ああ」。「ずっと?」。「お前が付き合ってくれるならな」。青年は手を差し出して 「俺はフンダーだ」と言う。モヴは、その手をしっかりと握り 「僕はマーチン。だけどモヴでいい」と挨拶(3枚目の写真、矢印は固く握った手)。
  
  
  

モヴ:「幾つなの?」。フンダー:「22」。こう言いながら、フンダーは、モヴが持って来たお酒を、モヴ自身にも飲ませる(1枚目の写真)。「僕のパパは35」。「そうか、お前はどうなんだ?」。「12。もうすぐ13」。2人で順番に飲みっこしたので、夜になってから部屋に戻ってきたモヴは完全に酔っ払っている。帰宅してからも 電話でマークとご機嫌に話していた母は、その様子に気付くと、「すぐ後で、かけ直すから」と言って電話を切り、息子の前に行くと「今まで何してたの?」と訊く。モヴは何も言わずにソファにドスンと座ると、ニコニコして母を見る。母は、モヴが手にしていた空の酒瓶を見て、「これ、残りを全部飲んだの?」と訊く(2枚目の写真)。モヴは頷くと、そのままソファに倒れ込んで寝てしまう(3枚目の写真)。
  
  
  

翌日、モヴは さっそく近所の子供達にマッチ棒の賭けをやって見せ、小銭を稼ぐ。すると、刑事がやって来て、フンダーの写真を見せ、「こいつを見たことは? 名前はフンダー。とても危険な奴で、何度も刑務所に入ってる」と訊く。モヴは、首を横に振って写真を刑事に返す(1枚目の写真、矢印)。刑事が去り、部屋に戻ろうとしたモヴは、リッケに呼び止められ、「ポリ袋の中は何?」と尋ねられる(2枚目の写真)。「過酸化水素〔傷口の消毒用のオキシドール〕」。「それで何するの?」。「何も。限界までガマンだよ」。「なに、それ?」。「知らない。じゃあ またね」。モヴは隠れ家に行くと、フンダーに頼まれて買ってきた過酸化水素水を傷口にかける(3枚目の写真、矢印)。フンダーは 痛さに耐えかねて思わず呻く。「感染しちまったかな?」。「うん、ちょっと」。「医者に行く必要があるな」。「平気さ。もっとひどく感染したの見たことあるもん。ちゃんと治せるよ。犬だったけど、良くなったよ」(4枚目の写真)。この楽観的な言葉に対し、フンダーは、「医者に連れてくんだ」と強く意思表示。そして、そのための準備として、絆創膏(ばんそうこう)とバリアム〔精神安定剤〕を持ってくるよう頼む。
  
  
  
  

部屋に戻ったモヴは、フンダーの真似をしようと、洗面台に置いてあったフランス製のランコム〔Lancôme〕社のニオソーム〔Niosôme〕というスキンケアの高級化粧品〔1991年の映画だが、パッケージは30年後の今も不変〕を頭髪に塗り、オールバックにしてみる。母は、もうすぐマークがやってくるので、ルンルン。モヴの変な髪形を見ても、「いつもの方がいいわね」と言っただけで、気もそぞろ。玄関のブザーが鳴ると すぐに飛んで行ったので、その隙に、モヴは洗面台の上の棚を開けてバリアムを見つけ(1枚目の写真)、ポケットに入れる。モヴは、その髪型のまま母とマークが抱き合っている前に出て行く。これが、モヴとマークの初対面になるので、マークは、「やあ、マーチン」と言い、モヴと握手。「私はマークだ。ちょっとしたお土産がある」。マークが玄関まで行って取ってきたものは、黄色い布を巻き付けた棒〔子供向けのインディアンのテント〕。「包む時間がなくて」。「ありがとう」(2枚目の写真)。何を渡されたか分からないに違いないと思ったマークは、母に手伝ってもらってテントを立てる〔高さ1.7mくらいの四角錐〕。その間に、早くフンダーの所に行きたいモヴは後ろに下がっている。マークが、テントに付属したインディアン風の斧のおもちゃを出して見せたところで、「ごめんなさい。もう行かないと」と謝る(3枚目の写真)。
  
  
  

フンダーは、バリアムの錠剤を大量に手の平に出すと、一気に口に入れ(1枚目の写真、矢印)、水もなしに そのまま噛み砕く。「そんなにたくさんいいの?」。「痛みがなくなるだろ」。「ママは4分の1飲むだけで、眠くなるんだ」。「女の人だからな。じゃあ行くぞ」。フンダーの傷は、絆創膏を貼っても、縫った訳ではないので、立ち上がるにもモヴの助けがいる。モヴの肩に腕をのせ、寄り掛かりながら通路をよろよろと進む。途中で、痛みに堪えかねて座り込もうとするが、モヴは 「休んでる時間なんかない」と言って、無理矢理立たせる。そして、何とか、自転車を停めておいた裏口まで辿り着く(2枚目の写真)。自転車には、後ろに箱車が付いていて、その箱にフンダーが横になると、モヴが両脚を箱の中に押し込み、上から布を被せてフンダーが見えないようにする(3枚目の写真、矢印はフンダーの頭髪)。フンダーが命じた医者の行先は、Karl Bernhardsvejの17番地。
  
  
  

モヴが、自転車のスタンドを倒していざ出かけようとした時、リッケが自転車に乗って帰ってきて、「どこに行くの?」と訊く。「どこにも」〔「何も」と同じ言葉〕。「地下室に行かない? 見せたいものがあるの。5分で済むわ」(1枚目の写真)。5分ならと思い、モヴはOKする。地下室に行ったリッケは、ソファの左側に座り、モヴが右側に座る。「このソファ、ウチで昔使ってたのよ。捨てるなんて可哀想」。そう言いながら、リッケは、モヴにぴったり体を寄せる。「代わりは、新しいけど安っぽいソファなの」。この言葉で、リッケは左腕をモヴの肩に回す(2枚目の写真)。そして、そのままキスしようとして、驚いたモヴと顔をぶつけ、モヴは鼻血を出す。「行かないと」。「横になって。鼻血が止まるわ」。リッケは体の向きを、モヴに寄り添うように変え、「どうしちゃったの? キスしたことある?」と訊く。モヴは首を横に振る。リッケはモヴに長いキスをする(3枚目の写真)。カメラのピントが2人から外れると、窓を伝う雨にピントが合う。外は雷雨だ。フンダーを覆った布も水浸し。しかし、地下室では、モヴはリッケに抱き合う形で眠ってしまう。
  
  
  

先に目覚めたリッケが額にキスしたことで、モヴも目が覚める。リッケは、「恋人同士になりたい?」と訊くが、モヴは 「今すぐ行かないと」と言い、急いで自転車に戻る。そして、申し訳ないと思いつつ布をめくると、フンダーにいきなり顔を叩かれる。「いったい どこ行ってたんだ!?」。モヴは、降りしきる雨の中、恥ずかしくて理由など言えない(1枚目の写真)。次のシーンは、フンダーが指名した医師のいる建物の玄関で、「Læge Fredriksen〔フレドリクセン医師〕」と書かれたブザーをモヴがいくら鳴らしても返答がない(2枚目の写真)〔夜なので、診療室の医師は帰宅してしまった〕。「ごめんさない。僕のこと、怒ってる?」。「当たり前だろ、このバカ!」(3枚目の写真)。フンダーは、道路の反対側まで行って、2階の電気が点いているか確かめるよう命じる。結果は、「真っ暗」。「あの地下に、あと一晩でも閉じ込められたら、肺炎にかかっちまう」。
  
  
  

次にモヴが、自転車に牽かせた箱車を引っ張って行った先は、フンダーのアパートのあるAhornsgade。参考までに、コペンハーゲンのグーグル・マップ(航空写真)を1枚目に示す。代表的な観光地、アンデルセンの「人魚姫」像と、「チボリ」公園の位置を示す〔「人魚姫」の左にあるのが、函館の五稜郭の94%の大きさのカステレッド要塞(1662年)。五稜郭(1866年)が時代遅れのアナクロニズムになったのは、設計者の蘭学者・武田斐三郎が古いオランダの資料を見て造ったため〕。地図の中央部分がコペンハーゲンの都心部。「17世紀の城壁」と書いたのは、今回、この小ささで航空写真を見て、3分の1円のきれいな城壁が残っていることに初めて気付き驚いたため。この城壁に関する情報はデンマーク語でもほとんど存在しない。さて、2つの★印。下がCarl Bernhardsvej。CとKは違うが、発音は同じ〔DVDのデンマーク語字幕が間違っているのも変な気がするが…〕。上がAhornsgade。両者の直線距離は2.50キロ。実走行距離は2.75キロ。フンダーを乗せた箱車を牽いた自転車を、小さなモヴが引っ張って走るのは、体力的に大変だったであろう。モヴのアパートの位置は不明だが、この2つの星の中間点かも〔いずれにせよ、コペンハーゲンの都心ではない〕? モヴがAhornsgadeの入口までフンダーを連れて行くと(2枚目の写真)、彼は通りの一番奥だと言う。そして、アパートの前に到着。フンダーは、「いいか、よく聞け。俺の部屋まで上がっていけ。ドアには、Frederik Mosebyって書いてある。中に誰かいるか見て、戻って来い」と指示し、部屋の鍵を渡す。モヴが行ってみると、ドアには「JOHNNY STRONG」という名札が取り付けられ、その下に、シワの寄った紙に、手書きで「Frederik Moseby」と書いたものがピンで留めてあった〔Frederikがフンダーの本名なのだろうか?〕。モヴは 錠を開けて中に入るが、恐る恐るざっとしか見ないので(3枚目の写真)、無人だと思う。そこで、窓を開けて下にいるフンダーに、「ここには、誰もいないよ」と報告する(4枚目の写真)。「奥の部屋はチェックしたのか?」。「うん、でも、真っ暗で」。「中に入ったか?」。「ううん」。「じゃあ、じゃ入れ!」。モヴが簾を分けて中を見ようとすると、突然電気が点く。太った男に、「ここで何しとる?」と訊かれたので(5枚目の写真)、モヴは怖くなって逃げ出す。
  
  
  
  
  

フンダーのところに戻ったモヴは、「長椅子に太った男がいた」と報告する。「そいつがジョニーだ。医者に連れてってくれる。医者と知り合いなんだ」。フンダーはモヴに手伝ってもらって立ち上がると、「上手くいくぞ」と嬉しそうに言うが、その途端、1階の電気が点き、中から、「ちくしょう!」という叫び声が聞こえる〔ジョニーの部屋は2階なので、なぜ1階の電気が点いたのかは不明〕。それを聞いたフンダーは、「俺一人で上がって行く」と告げる。「一緒に行けないの?」(1枚目の写真)。「ジョニーは他人が来るのが好きじゃない」〔モヴは、さっき無断侵入して遭っている〕。「じゃあ、僕はどうすれば?」。「見張っててくれ」。フンダーが2階に上がっていくと、すぐにパトカーが現われる〔フンダーのアパートを見張るため〕。すると、2階の別の部屋の窓が開き、女性が 「こんな時間に何なのよ!」と文句を並べ始める。それを執行妨害だと思ったのか、女性はパトカーに連行されて警察に連れて行かれてしまう〔パトカーはいなくなる〕。心配になったモヴは、2階に上がって行き、ジョニーの部屋をノックする。「誰だ?」。「モヴ。フンダーの友だち」。ジョニーがドアを開ける。簾の中にいたフンダーは、「医者に連絡してくれたか?」とジョニーに訊く〔パトカー騒ぎの間に、フンダーが医者のことをジョニーに頼んだ?〕。ジョニーは、「デンマーク語が理解できんのか? 荷物をまとめて出てけ! 5000クローナ、10ヶ月も借りっぱなしだぞ」と、同居者とは思えない厳しい口調でなじる(2枚目の写真)。「助けてくれよ、行き場所がないんだ」。ここで、モヴが、「なら、僕んちに行こう」と支援の言葉(3枚目の写真)。ジョニー:「こいつ、誰なんだ?」。フンダーは、「通りで遭っただけのガキだ」と返事し、モヴの心をひどく傷付ける。「嘘だ! 2日間、世話したじゃないか」。ジョニーも、「10ヶ月ここに居させてやったのに一銭も払わん。タダだと思ってんのか?」。モヴは、「あんたは、どうしようもないロクデナシだ。刑務所に行けばいい」と言って、部屋を出て行く。そして、1階に下りていくと、悲しくなって泣き始める(4枚目の写真)。突然、階段に電気が点き、「ギターを売るよ」というフンダーの声が聞こえる。「ガラクタじゃないか。お前には心底うんざりした。顔も見たくない、出てけ!」。裸でデブの巨体のジョニーは、そう言い放つと、コートで身をくるんだ痩せのフンダーを、玄関に向かって突き落とす。フンダーは、「俺に向かって指図するな!」と怒鳴り、ナイフを出す。ジョニーは、ナイフを持った腕をつかむと、玄関から道路に放り出し、「このアホウ!」と叫ぶ。
  
  
  
  

そんな惨めなフンダーを見ていて可哀想になったモヴは、「『刑務所に行けばいい』って言ったの、本気じゃないからね」と声をかける(1枚目の写真)。心底不良のフンダーは、「いっそ刑務所に行きたいよ」と減らず口。その時、2階の窓が開き、ジョニーが、「このギターに、お前の持ち物、みんな持ってけ。全部ガラクタだ」と言うと、道路に向かって窓から投げ捨てる。モヴは「ジョニーには頼れなくなっちゃった。限界まで我慢、だよね?」と声をかける(2枚目の写真、矢印はひしゃげたダンボール)。場面は一気にモヴのアパートに。居間のドアが開き、モヴとフンダーが入ってくる(3枚目の写真)。
  
  
  

2人がモヴの部屋に入ると、ドア1枚でつながっている隣の寝室から母の声がする。「マーチン、あんたなの?」。モヴがドアを開けると、母から 「今までどこに行ってたの?! 心配で眠れなかったじゃないの!」と叱られる(1枚目の写真)。「どこにも」(2枚目の写真)。「どこかにいたんでしょ?!」。そして、「こっちにいらっしゃい」と近くに来させ、「何か隠してない?」と訊く。モヴは、首を横に振る。「リッケが来てね、恋人だって言ってたわよ。なぜ、黙ってたの? 別に隠すことでもないのに」。自分の部屋に戻ったモヴは、フンダーをベッドに横にならせると、膝の上に乗せた足から靴を脱がせ、その足を1本ずつ持ち上げて自分の頭をくぐらせる(3枚目の写真)〔そうしないと、ベッドから出られない〕
  
  
  

そして、翌朝。モヴは、狭いベッドでフンダーにつかまるように眠っている(1枚目の写真)。そして、朝、定時にセットしてある目覚しの大きな音で起きると、パンツ1枚のまま、ベッドに腰かけ、次はどうすべきか考える(2枚目の写真)〔ここに置いておけば、必ず母に見つかってしまう〕。起こそうと、布団をめくると、傷の部分が真っ赤に染まっていたので、モヴは気持ちが悪くなり、トイレに駆け込んで吐く。そして、水道で顔を洗う(3枚目の写真)。
  
  
  

これほどの傷口に対して正しい判断かどうかは モヴ本人にも分からなかったが、血まみれにはしておけなかったので、フンダーにシャワーを浴びさせることに。シャワー室で、モヴは 「好きなだけいていいよ」とフンダーに言う。「ママさんにどう話すか、考えないと」。「気にしないで、大丈夫」。体を拭いたフンダーは大きな絆創膏で傷口を覆う。そして、体を拭いているモヴに、「ひげそりセットはあるか?」と訊く。「もちろん」(1枚目の写真)〔別れた父親のもの?〕。2人は裸のまま、隣の洗面の前に行く。フンダーがシェービングクリームを顔の下半分と首に塗ると、モヴも真似して同じように塗る。フンダーが頬を膨らませてカミソリで剃ると、髭なんかないモヴも、同じように剃る(2枚目の写真)。途中で、モヴは、「これから、朝食を作って、ママを起こす。ABENであんたに会ったって話すよ。あんたがガールフレンドに追い出されたんだって」。「俺が、前に お前を助けたから、借りがあることにしたらどうだ?」。この話し合いの最中に、ドアが開き、母が入ってくる。母が見たのは、3枚目の写真の光景。
  
  
  

「ここで何が起きてるの?」。突然の言葉に驚いた2人はドキっして振り返る(1枚目の写真)。「あんた、誰?」。モヴ:「フンダーだよ」。「ここで、何してるの?」。「僕の友だち。昨日、ここで泊ったんだ」。母は、「マーチン、ちょっと こっち来て」と別室に連れて行く。次のシーンでは、母は同じ服装で、モヴは服を着て、食卓に座っている。「作り話じゃないわよね?」。「ぜんぜん」。そこに、別れた夫の背広を着たフンダーが現われる。「ペルの服ね」。「うん」。フンダーは何も言わない。「フンダーに約束したんだ。ここにいて いいって」(2枚目の写真)。ここで、初めてフンダーが口を開く。「行き場所がなくなって」。「この近所の人じゃないの?」。「いいえ」。モヴがフンダーにチーズの乗った皿を差し出すと、彼は、「Gamle Ole〔デンマークを代表するダンボーチーズの銘柄の一つ〕?」と訊いて、チーズの乗ったトーストをおいしそうに食べる。モヴは、“フンダーのいい影響” を見せようと、いつもは嫌いで食べないチーズを食べ(3枚目の写真)、母をびっくりさせる。
  
  
  

その少しあと、玄関のブザーが鳴る。率先して出て行ったモヴは、ドアを開けるとリッケがいたので、笑顔になる(1枚目の写真)。「入っていい?」。「今は、ちょっと」。「どうして?」。モヴが何度も室内を振り返るので、モヴ越しに中を覗くと、パンを食べている指名手配犯の顔が見える(2枚目の写真)。リッケは、通報しようと、すぐに向きを変えて階段に向かう。モヴが、「どうしたの?」と訊くと、一瞬立ち止り、「何 考えてんの?」と言うと、そのまま駆け下りる。事態に気付いたモヴは 「悪い人じゃない!」と叫ぶが(3枚目の写真)、リッケは無視して、自分の部屋に駆け込む〔すぐ、警察に通報〕
  
  
  

モヴは、食卓に走って戻ると、フンダーの前に立つが、言葉が出てこない。異様な表情に、ピンと来たフンダーは、「悟られたのか?」と訊き、モヴが下を向いたので、「このドジ!」と罵る。「ここから、どうやって逃げる?」。頭がパンクしてしまったモヴが何も言えないでいると、「考えろ!」と怒鳴る。フンダーは、床ブラシを松葉杖代わりに脇の下に挟む。モヴは、「こうしよう。屋根づたいに次の階段まで行って道に降りよう」と提案(1枚目の写真、矢印は逆さまにした床ブラシ)。窓の外からは、パトカーのサイレンが聞こえてくる。フンダーは手すりをつかんで階段を上がっていたが、それでは警官隊に追いつかれるので、モヴが左肩を支えて〔右肩は床ブラシ〕、可能な限り早く階段を登る(2枚目の写真)。屋上に行くための小部屋のドアは、開かないようにイスを倒して内側から固定し、遂に屋上へ(3枚目の写真)。
  
  
  

2人は、アパートの屋上を小走りに逃げる(1枚目の写真)。警官隊は、イスで固定されたドアに手こずって 先に進めない。アパートの端まで来た時、モヴは、「ここからは一人で行った方がいい。警察が来たら、別な方に行ったと話すから」と言った上で、アパートの先の瓦屋根を指し、「屋根の向こうに 上げ蓋がある」と教える(2枚目の写真)。その屋根は、急勾配な上に、頂部の半円筒形の瓦は斜めに差し込まれていて(3枚目の写真)、普通の人でも歩くのは困難だ〔私は高所恐怖症なので絶対に無理〕。モヴの説明が終わると、フンダーは手を差し出し、2人は固く握手する(4枚目の写真)。
  
  
  
  

フンダーは、最初は、頂部の瓦に跨ったが、それでは前に進めないので、何とか頂部の瓦の上に立ち上がり、床ブラシでバランスを取りながら そろそろと歩いて行く。モヴは、屋根の端にしがみついて心配そうに様子を見ている(1枚目の写真)。フンダーは、煙突まであと1メートルのところで、後ろを振り返り、バランスを崩して床ブラシを手放し、煙突にしがみ付く(2枚目の写真)。床ブラシは、長い屋根を滑り落ち、その先の5階分の空中を飛んで地面に落ちる〔屋根のてっぺんは7-8階くらいの高さ〕。それを見ていたモヴの手が滑り(3枚目の写真)、ストッパーのない急傾斜の瓦の上を滑り(4枚目の写真)、かろうじて雨どいを壊して止まる(5枚目の写真)。
  
  
  
  
  

ここは、5-6階の高さなので、そのまま落ちれば死んでしまう。下を見たモヴは(1枚目の写真)、目を閉じて瓦に顔を埋める。それを見たフンダーは、何とか助けようと少しずつ体をずらしてモヴの方に向かおうとするが(2枚目の写真)、モヴは、「逃げて!」と言う。「いや、助けにいくぞ」。しかし、その前に、屋根の “天窓” が開き、警官がモヴの両手を掴んで引っ張り上げる(3枚目の写真)。
  
  
  

モヴは、天窓から屋根の内部に引きずり込まれる(1枚目の写真)。そして、隣の建物なので、呼ばれてやってきた母に抱き締められる(2枚目の写真)。そこに、何を見に来たのか分からないが、リッケが姿を見せる。リッケを見つけたモヴは、思い切り睨みつける(3枚目の写真)。その目線の強さに、リッケは顔を伏せる〔永久に絶交〕
  
  
  

フンダーも救助〔逮捕?〕され、ケガがひどいので、救急車に乗せられる。アパートの玄関のガラス窓越しにそれを見ているモヴに気付いたフンダーは、頭を上げてニッコリほほ笑む(1枚目の写真)。それを見たモヴも、嬉しそうにほほ笑む(2枚目の写真)。救急車のハッチバックが閉まると モヴはアパートから出てくる。そして、サイレンを鳴らして走り出すと、後を追って走って行く(3枚目の写真)〔今回は、相手の方が悪いので、退院したら、刑務所行きはないのかもしれない。2人は、生涯の友になるのかも〕
  
  
  

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